格言再考-格言を正しく理解する方法
格言の状況依存性
格言は経験の中から生まれてきたからでしょう、限られた状況において意味を持つ場合が多いようです。この格言の状況依存性をわきまえておきましょう。なぜなら、格言はその状況から切り離されて伝えられ記憶されそして普遍化される傾向があるからです。こうなると限定された状況の中では真実な格言でも、普遍化されることにより真実ではなくなってしまうことでしょう。異なる状況では全く当てはまらないことでしょう。たとえば、
『逃げるが勝ち』
しかし、いつも逃げてばかりはいられません。逃げる場合が得策の場合を識別してこそ、この格言には意味があります。どんな場合でしょうか。本当の理解にはそれを考えることが必要なのです。もしかしたら、異なる状況の中ではぴったり当てはまる別の格言があるかもしれません。そのような場合、それらの格言を総合するとより一層正しい理解が得られるようになるでしょう。この場合、次のような格言があります。
『攻撃は最大の防御』
全く反対のこの格言が当てはまるのはどんな状況でしょうか。こう考えてみると、あるときは逃げあるときは攻撃する、そのバランスこそ勝利の鍵ということになります。これは一例ですが、こういう場合が多いようです。
もう一つ例をあげてみましょう。
『君子危うきに近寄らず』
という名言があります。しかし、場合によっては、
『虎穴に入らんば虎子を得ず』
または、『義を見てせざるは勇なきなり』
という格言がぴったりの場合もあります。そうです、危険を犯すとしても避けて通るなら後悔する場合もあるのです。ここでも、知恵と勇気のバランスが大切ということになります。
さて、ある格言が別の格言を例証して、一層具体的に適用を明らかにしている場合もあります。
『油断大敵』
という格言は油断が最大の敵となり得るという一般的な事実を指摘しています。では、どんなときに慎重であるべきなのでしょうか。
『勝って兜の緒を締めよ』(うまくいっているとき)
『石橋を叩いて渡る』(大丈夫と思えるとき)
『九十九里をもって半ばとす』(終わりが近づいたとき)
『大事の前の小事』(小さなことにも)
『急がば回れ』(急いでいるとき)
こうして、具体的にいつどのように慎重であるべきかを教えられるのです。逆に、どんなときに油断して失敗してしまうかも学べるでしょう。
恐らく別々に異なった状況で生まれた格言が相い補い合っているということは面白いことではないでしょうか。そして、それを総合するのは経験ではなく理性です。理性によって、状況に依存する格言がさらに一般的な指針の下に総合されるのです。こうして理解は一層深められ、それにより知恵が一層強化されることになるのです。では、格言を考える際、その状況依存性ということを常に念頭に置きたいものです。
誇張法、類推、比較など
格言の表現の特色についても少しだけ触れておきましょう。推量の表現が用いられることは少なく、断定的に述べて誇張することが多いようです。
『二度あることは三度ある』
はその良い例でしょう。あくまでもそういう可能性があると理解しなければなりません。
『朱に交われば赤くなる』
これは、赤い染料に触れれば赤く染まるという確かな事実から類推させて、交わりの影響の大きさを強調しているのです。そのような強調によって大切な事実に気づかせるところに格言の価値があるのでしょう。類推や比較は格言の最も一般的な方法でしょう。
『親の意見と冷や酒は後で効く』
親の意見を冷や酒と比較して考えさせているのは面白いですね。
『猿も木から落ちる』
『弘法も筆の誤り』
といった表現にも注目してみましょう。これらは、最も上手なもの、最も優れたものを上げて、一つの事実を証明しようとしているのです。こうした説得力のある証明法も体得したいものです。
格言の様々な表現法を考察するならその意味をより一層正確に理解する助けになることでしょう。しかし、まず、格言の状況依存性、誇張法、類推、比較といった点を念頭に置きながら、格言を様々な角度から考えてみたいものです。