第9話「桜草の冬日記」(-その2-)
ギシギシと雪を踏みしめる足音がゆっくり近づいてきます。桜草はわくわくしながら「あっ、来たわ」とちょっぴり緊張します。現れたのは古ぼけた茶色のコートの画家の青年です。ベレー帽と肩の上に雪を積もらせたまま「ハアーッ」と大きな溜息をついて花園の中にドサッと座り込みます。体に積もった雪を払おうともしません。赤く腫れた眼は悲しみを物語っています。桜草はじっと耳を傾けます。絵描きの青年の独り言を待っているのです。「僕には描けない。もうやめよう」。どうやら青年は思い通りの絵が描けない様子です。桜草は困ってしまいます。助ける方法がわかりません。でも自分に出来ることをやってみる事にしました。「ガンバッテ、ガンバッテ」とピンクの小花の首を何度も振りました。甘ーく優しい香りが広がっていきます。青年が気付き「なんていい香りだ」と言いながら桜草をみつめます。「ガンバッテ」と桜草は一生懸命小花を揺らし続けます。突然、青年は立ち上がります。「そうだ、わかったぞ。生きてる花は香るんだ。香るような生きた花の絵にしなければならないんだ」と叫びながら雪降る中へ飛び出して行きました。もちろん、感謝の一言もないのですが桜草は満足し嬉しそうに微笑みます。 つづく

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