第9話「桜草の冬日記」(-その1-)
木枯らしがヒューヒュー吹いています。雪もコンコン積もりました。でも、町の外れにある小さな雑木林の真中に、日溜まりの場所があります。冬なのに、なぜかそこだけはポカポカといつも暖かくて春のようです。いつの間にか誰かがそこに花の種を蒔くようになり、やがて花園になりました。デージー、桜草、パンジー、ストックそしてバラなどの花の香りが、ふんわりと漂っています。ここには、さみしい人、疲れた人、犬、猫、猿、キツネまで、毎日誰かが訪れます。それで、花たちは冬の間、その日の当番を決めました。来た人や動物を慰める当番です。昨日はデージーさんの当番でした。コンコン雪の中で、お腹がすいて死にそうなウサギがたどり着きました。デージーさんは自分が食べられることにしました。でも大丈夫、根っこがあるからまた出てきて花を咲かせます。根っこだけになったデージーさんは元気になったウサギを見送って嬉しそうです。自分の当番の役目をしっかり果たしたからです。そして「今日は私の番だわ。誰が来るかしら」と、桜草がそよ風に誘われてピンクの小花をかしげます。楽しみにして張りきっています。雪と木枯らしの中を、この春の園を求めてくるのは誰でしょう。 つづく

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