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第19話 茜色のファンタジー
- その1 -
雨のあがった夕暮れ、褐色の落ち葉に包まれた赤とんぼのトムに、サーヤが出会ったのは一週間前でした。薄いガラス細工のような透ける羽を濡らしてしまい、ビクッとも動かなくなっていたトム。 サーヤは、落ち葉のままトムを手のひらにのせて家に持ち帰りました。そして、暖炉の前の柔らかなクッションの上に置き、羽が乾くのを待ちました。トムは少しずつ羽を震わせ始めました。暖炉のくゆる光に照らされた細い赤とうがらしのような体に、温もりが伝わっているようでした。サーヤは顔を近づけ、静かに「だいじょうぶ?」とたずねてみました。トムは、生死の境をさまよいながら『生きて・・もう一度空を飛びたい!』と闘っていました。消えかけた炭火のような命の力にもかかわらず・・トムは必死に羽を二度ばかりパサッ!パサッ!と閉じてまた開いて見せました。自分を助けてくれた、サーヤへの感謝を表す精一杯の答えでした。「そう・・よかったねぇ」とサーヤは安心して自分の部屋に戻り ベッドに就きました。そして、朝の光が暖炉の部屋に射し込み始め・・トムの赤い体を目覚めさせます。 つづく
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