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第11話 アネモネの密かな悩み
- その1 -
年も三月が近づきました。原っぱで、まだ地面にくっついている蕾のアネモネさんは顔を土に埋めて悩んでいます。この原っぱでアネモネさんより上品で華麗で優れた草花はいません。地中海沿岸生まれで、聖書の中でイエス様に美しい姿が褒められ足元で揺れて見せたという有名な花なのです。どの草花からも尊敬され続けてきました。「風」という意味のギリシャ語から発した名前も、そよそよ揺れたときの気品さえ思わせます。でもアネモネさんにとってどうにもならない悩みは背丈の伸びと同じ速さで大きくなります。原っぱに植えられてから、これ迄の二年間隠し通せた悩みを今年の春も隠せるでしょうか。そして、ついに花首の少し下に悩みの種が目立ち始めます。三月の晴れた日、冬眠から目覚めたばかりの蛙が原っぱを横切りながらつぶやきます。「なんだ、よだれ掛けをつけた花なんて初めてだぞ」。若いモグラも土の中からチラッとアネモネさんを見て声をかけます。「おっ、よだれ掛けつけて・・何食べたんだ」。そうです。アネモネさんの密かな悩みは花首の下についてるちょっと目立つ・・よだれ掛け・・いいえ、葉っぱだったのです。花びらを大きく開いてしまえば隠れてしまうのですが今はまだ蕾です。それに咲いていても下から見られては隠せません。上品なアネモネさんは恥ずかしさでうつむいてしまいます。「大人になってもよだれ掛けなんて・・友達のタンポポさん達に見つけられたら、きっと嫌われるに違いないわ。どうしよう」。  つづく
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